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Column

Kiyomi Ishibashi:Cinema! 石橋今日美

2014/11/18

INCOMPRESA (Tokyo International Film Festival, World Focus)『わかってもらえない』(東京国際映画祭、ワールド・フォーカス)

 暗闇の中できらきらと輝く万華鏡の中に入り込んだような作品だ。キャンディーショップのような80年代のポップな色彩と音楽、ファッション。輝いているのに、いつの間にか存在の奥底に蓄積した、しんとした寂しさがある。『わかってもらえない』は、9歳の少女アリアの声にならない叫びを、ひとつのストーリーのまとまりとしてではなく、ヴィヴィッドなエピソードの積み重ねに響かせる。


 鮮やかな幼少期のスケッチ


 アリアの両親、有名俳優の父(ガブリエル・ガルコ)とピアニストの母(シャルロット・ゲンズブール)の間に喧嘩は絶えず、離婚してしまう。姉は父親に、妹は母親につき、どっちつかずのアリアは、バッグと黒猫を抱え、父と母の間を行き来することになる。父親も母親も、それぞれの仕事と恋愛に夢中で、幼い娘に心から関心を抱く時間も余裕もない。本作が長編第三作目となるアーシア・アルジェントは、イタリアのホラー映画の巨匠ダリオ・アルジェントと女優ダリア・ニコロディを両親に持ち、母親役に実の母と容貌が重なるシャルロット・ゲンズブール(女優アーシアとの共演作あり)と三女役に自身の娘を起用していることから、自伝的作品をイメージしてしまう。しかし、親がどんなにエキセントリックであろうと、凡庸であろうと、初めての恋や女友達との同士的な関係と裏切り、ロックの発見など、境遇の違いを超えて共感を誘う幼少期特有の体験を、見る者の情(涙)に容易に訴えない、シャープなアプローチで切り取っている。


 監督アーシア、成熟の帰還


 ドラッグや児童虐待など、あからさまにダークなトーンを打ち出した、これまでの二作(『スカーレット・ディーバ』2000年、『サラ、いつわりの祈り』2004年)も自伝的要素が濃く、監督・主演していることから、「汚れ役」を演じる女優のナルシシズムがどこかに漂っていた。だが、本作ではスクリーン上には姿を見せず、バンビのような瞳が印象的なアリア役を演じるジュリア・サレルノと素晴らしいコラボレーションを見せている。作品全体に通底する、ロックで永遠のバッドガール的なテイスト、大人の教訓で子供のカオスを丸め込まないラストは、間違いなくアーシアならでは。監督としての成熟は見せながら、「守り」には入らない、作り手としてのしなやかな強さを証明するような作品に仕上がっている。



『わかってもらえない』  INCOMPRESA

イタリア=フランス/2014年/106分



【キャスト】


シャルロット・ゲンズブール(母)


ジュリア・サレルノ(アリア)


ガブリエル・ガルコ(父)


カロリーナ・ポッチョーニ(ルクレツィア)


アンナ・ルー・カストルディ(ドナティーナ)





【スタッフ】


監督/脚本/音楽:アーシア・アルジェント


脚本:バルバラ・アルベルティ


エグゼクティヴ・プロデューサー:グイド・デ・ラウレンティス


プロデューサー:ロレンツォ・ミエーリ、エリック・ユーマン


撮影:ニコラ・ペコリーニ


美術:エウジェニア・F・ディ・ナポリ


編集:フィリッポ・バルビエーリ


衣装:ニコレッタ・エルコレ


音響:トゥリオ・モルガンティ

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