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Column

Kiyomi Ishibashi:Cinema! 石橋今日美

2015/02/16

FIFTY SHADES OF GREY『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』

 Buzzy film


 テレビ局勤務の女性が、子育てをしながら『トワイライト』シリーズのファン・フィクション(二次創作)としてネット上で書き続けた小説が、全世界累計1億部を突破する3部作のベストセラーに。「官能恋愛小説」、はたまた「マミー・ポルノ」(著者そして読者層の中心が主婦)というジャンルを知らしめるにいたった『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』は、ユニバーサル・ピクチャーズとフォーカス・フィーチャーズが500万ドルで映画化権取得に競り勝ったニュースをはじめ、キャスティングにヴァーチャル署名による反対が起こるなど、海外のファンを中心に製作段階から恐ろしく高い関心を集めていた。「ハリポタを超えた」原作の映画化作品だけに、各国で女性向けメディアや化粧品メーカーなどを動員するキャンペーンが展開され、鳴り物入りで公開にいたった。原作に馴染みのない者にとっては、作品を取り巻く「社会現象」とフィルムそのもののクオリティーが一致しているのかという好奇心に駆られることになる。実際に本作を鑑賞してみると、原作の世界に引き込まれた女性たちがハイティーンではなく「マミー」だったのか、疑問を抱かずにはいられなかった。ここで提示される男女の関係性、セクシュアリティーの表現には一種の「幼さ」が否定できない。女性とエロスのテーマに関して言えば、例えば昨年公開されたラース・フォントリアーの『ニンフォマニアック』に匹敵する「懐の深さ」や大胆さ、唯一無二の世界観を堪能する悦びはない。もっともトリアー作品と比較すること自体が間違っているのだが…


  Not powerfully seductive

 ヒロインのアナ・スティールは卒業を控えた英文学専攻の大学生。ルームメイトの代役として、27才にして巨万の富を築き上げたCEOのクリスチャン・グレイにインタビューするため、彼のオフィスを訪れる。モデルとしても通用する「ホットな」ルックスの若き億万長者が、恋愛経験ゼロのアナを魅了するのに時間はかからず、グレイも彼女に未知の魅力を感じ取る。フィルムの原作が世界的な女性ファンを獲得した理由のひとつは、恵まれた容姿と桁はずれの経済力を持ち合わせた一見完璧な男性に、純朴さが強いて言えば長所の女性が見初められるというシンデレラ・ストーリーの要素だろう。飽くことなく繰り返し語られるシンデレラ物語に加え、グレイの性的嗜好に「適度な」歪みを持たせることによって、恐いもの見たさの欲望を刺激する。女性が悲鳴をあげそうなハードなサディズム/マゾヒズムではなく、羽でくすぐるようなエロティックな描写、実に分かりやすく噛み砕かれたラグジュアリーの世界のクリシェ(自家用ヘリコプターや小型飛行機での移動、整然と衣服が納められた、ブティックのようなウォークインクローゼットやグランドピアノのあるグレイのペントハウスの自宅など)のコンビネーションが、最大公約数的に見る者に訴えかけるコマーシャルのように映る。原作と映画化作品を詳細に比較したわけではないが、小説のヒロインの第一人称の語りは、非人称のカメラに置き換えられ、イマジネーションの働きを要さない、紋切り型の台詞は要所要所でそのまま俳優のダイアローグとなっている。


 身を焦がすような恋愛感情も、脳裏に焼き付いて離れないセンシュアリティーも、ある種のリスクを引き受けて得られるものではないか。自身の価値観や体験を一変するような映画に出会うということは、感受性のリスクを背負うことを意味するように思う。その意味では、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』はリスクフリーのフィルムであり、果敢にリスクを引き受ける映画との向き合い方では、不毛な2時間あまりを過ごすことになる。


 『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』 FIFTY SHADES OF GREY

公開中

アメリカ/2015年/125分

公式サイト:http://fiftyshadesmovie.jp

【キャスト】

ジェイミー・ドーナン(クリスチャン・グレイ)

ダコタ・ジョンソン(アナ(アナスタシア)・スティール)

ジェニファー・イーリー(カーラ・メイ・ウィルクス)

ルーク・グライムス(エリオット・グレイ)

マーシャ・ゲイ・ハーデン(Dr.グレース・トレヴェリアン・グレイ)

マックス・マティーニ(ジェイソン・テイラー)

エロイーズ・マンフォード(ケイト・キャヴァナー)

ディラン・ニール(ロビン・(ボブ)・アダムス)

リタ・オラ(ミア・グレイ)

ヴィクター・ラサック(ホセ・ロドリゲス)

カラム・キース・レニー(レイ・スティール)

【スタッフ】

監督:サラ・テイラー=ジョンソン

脚本:ケリー・マーセル

原作:E L ジェイムズ「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」(早川書房刊)

製作:マイケル・デ・ルーカ、E L ジェイムズ、ダナ・ブルネッティ

製作総指揮:マーカス・ヴィシディ

音楽:ダニー・エルフマン

衣装デザイン:マーク・ブリッジス

プロダクション・デザイン:ディヴィッド・ワスコ

撮影監督:シェイマス・マクガーヴェイ

ユニバーサル映画/フォーカス・フィーチャーズ

配給・東宝東和

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