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Column

Kiyomi Ishibashi:Cinema! 石橋今日美

2015/07/21

INSIDE OUT『インサイド・ヘッド』

© 2015 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

 映画において、何をどこまで見せるのかという可視化の問題は、リアリズムの領域を超えて興味深い。例えばスティーブン・スピルバーグの場合、『激突!』で主人公を追いかける大型トレーラーは、運転手の顔が見えないがゆえに余計、執拗に迫り来る恐怖感をあおる。同様に『ジョーズ』では、人喰いザメの一部しか見えないことが、緊迫感とサスペンスを高める。もしサメの全身が絶えず描写されていたなら、『ジョーズ』はあのテーマ曲とともにシンボリックに人々の記憶に定着することはなかったかもしれない。ディズニー・ピクサー映画が、世界初の長編フルCGアニメーション『トイ・ストーリー』(1995年)を世に送り出してから20年。アニバサーリー作品となる最新作『インサイド・ヘッド』は「見える化」の微妙さをはらんだフィルムだ。本作で核心となるのは、登場人物の頭の中に存在する感情を擬人化して描くこと。観客に名状し難いエモーションを喚起するのが、映画が観客に提供する始原的な悦びであるなら、11才の少女ライリーの頭の中の感情を、ヨロコビ、イカリ、ムカムカ、ビビリ、カナシミという5人のキャラクターとして登場させることは、ある意味、デリケートでリスキーなチャレンジのように思われる。

© 2015 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

 エモーションの鮮やかなキャラクター化

 ヒロインのライリーは、父親の仕事の都合で住み慣れたミネソタを離れ、サンフランシスコで暮らし始める。一家は新居に到着するも、新しい家は手狭で、荷物は予定通り届かず、近所のピザ屋にはライリーが嫌いなブロッコリーのピザが一種類あるだけ。転校先の学校は当然ながら見知らぬ顔ばかり。少女の感情の変化は、一喜一憂の「喜」が優位に立つように、星のように輝く快活な若い女性として表現されるヨロコビがリーダーとなり、その他のキャラクターが協力して脳内の「司令部」で奮闘する様子によって示される。ヨロコビたちが操作する、感情の発動を制御するレバーやボタン、幼少期の楽しい記憶やヒロインの人格形成や家族関係に関わる体験を具現化するキラキラの「思い出ボール」。記憶や夢といった映画そのものメタファーとなる事柄までも、アニメーションとしてスクリーン上に描写される新鮮な驚きがここにはある。ライリーのママとパパの頭の中の感情を、ユーモラスにデフォルメしたキャラクターたちは、子供連れの大人の観客の笑いも誘うことだろう。

© 2015 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

 ヨロコビは言うなれば「優等生」、動きも鈍く、重大なミスを犯すカナシミは一種の「劣等生」。しかし、ネガティブな感情にも存在理由があり、喜びも悲しみもお互いに排斥するものではないというストーリー展開には、贅沢をいえば物足りなさも残る。もっともカタルシスの効用を熟知している者は、複数の感情の発動や記憶のメカニズムなど、複雑きわまりない対象を映画化する発想とアニメーションの技術・描写力に素直に感嘆すべきなのかもしれない。


『インサイド・ヘッド』 原題:INSIDE OUT


アメリカ映画/2015年/1時間42分(短編を含む)/カラー/ビスタサイズ

同時上映短編『南の島のラブソング』


7月18日(土)、全国ロードショー


公式サイト : http://www.disney.co.jp/movie/head.html


配給 :ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン


【声の出演】


エイミー・ポーラー(ヨロコビ)


フィリス・スミス(カナシミ)


ルイス・ブラック(イカリ)


ミンディ・カリング(ムカムカ)


ビル・ヘイダー(ビビリ)


リチャード・キング(ビンボン)


ケイトリン・ディアス(ライリー)


カイル・マクラクラン(パパ)


ダイアン・レーン(ママ)




【スタッフ】


監督:ピート・ドクター


共同監督:ロニー・デル・カルメン


脚本:ピート・ドクター、メグ・レフォーヴ、ジョシュ・クーリー


製作:ジョナス・リベラ


製作総指揮:ジョン・ラセター


音楽:マイケル・ジアッチーノ

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