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Column

Kiyomi Ishibashi:Cinema! 石橋今日美

2015/10/28

21 NUITS AVEC PATTIE 『パティーとの二十一夜』(第28回 東京国際映画祭、ワールド・フォーカス)

© Jérôme Presbois  © 2015 Arena Films - Pyramide Productions

  ありとあらゆるタイプの性的欲望を手玉に取るビジネスは細分化し、発達しているのに、セクシュアルには未熟な大人たち。生身の異性を相手にした恋愛は面倒だと感じている若者。そんな人々には到底、構想できないだろうフィルムを作り上げるアルノーとジャン=マリーのラリユー兄弟。新作『パティーとの二十一夜』も、「アンニュイで小難しい」といったフランス映画のステレオタイプ的なイメージを打ち破る快作だ。

 突然の訃報を受けて、南仏の小さな村にある、母の遺した大きな家に到着したキャロリーヌ。彼女を迎えた管理人のパティーは、故人の思い出話もそこそこに、男たちとの情事をあけすけに語り、キャロリーヌを困惑させる。葬儀を済ませて早々に自宅に帰る予定のキャロリーヌだったが、母の遺体が忽然と消えてしまう。ネクロフィリアの男性が周囲をうろついているという不穏な情報が流れる中、キャロリーヌの目にはル・クレジオにそっくりの初老の男性ジャンが現れ、パティーは死体になった自分が性的対象となる夢想にふける。


 作品は、南仏の町の夏祭りの賑わいとともに、奔放なエネルギー、生(性)と死のおおらかさにあふれている。通常なら眉をひそめたくなるような話題も、笑いを誘い、ダンスする死者(イサベルの母役に扮するのは、コンテポラリーダンス界を牽引してきた振付家マチルド・モニエ)という信じ難い現象も、すんなりと受け入れられるファンタスティックな時空間が構築されている。現代映画の多彩さ、幅の広さを独自の世界観のもとに具現化するラリユー兄弟。あからさまな「下ネタ」の連投でも、決して下品に感じられることなく、ハリウッド女優には見られない熟女の堂々たる魅力とユーモアを披露するパティー役のカリン・ヴィアールと、少女のような可憐さを見せるヒロインのイザベル・カレのコントラストも作品を華やかに盛り上げる。

『パティーとの二十一夜』21 NUITS AVEC PATTIE

2015年フランス/カラー/115分

【キャスト】


イザベル・カレ(キャロリーヌ)


カリン・ヴィアール(パティー)


アンドレ・デュソリエ(ジャン)


セルジ・ロペス(マニュエル)


ドゥニ・ラヴァン(アンドレ)


【スタッフ】


監督・脚本:アルノー・ラリユー、ジャン=マリー・ラリユー


プロデューサー:ブリュノ・ペセリ、フランシス・ボーフラッグ、クレール・トリンケ


撮影監督:ヤニック・レシジャック


美術:スタファーヌ・レヴィ


編集:アネット・デュテルトル


衣装:マイラ・ラムダン=ルヴィ


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